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残り火2nd stage 第3章:青いワンピースと葵さん13

Author: 相沢蒼依
last update Last Updated: 2025-11-06 06:18:01

***

千秋にやられた――何なんだ、その無防備で無邪気な顔は……。

手を出さない作戦で、まんまと罠にかけてやろうと企んでいたのに、いきなり子ども扱いをされ、頭を撫でられている内に押し切られてしまった。ヤル気満々な俺の気持ちをへし折るような純真な対応に、心を打ち抜かれてしまうなんて。

「さすがは、千秋といったところか。この俺を黙らせるとは、たいしたものだ」

台所で忙しなく動く背中を見やり、次の作戦を考えた。やられたまま終わるとは、思っていないだろうな。逆にそこをついてあげるよ。

立ち上がって千秋の背後に立つと、シャツの裾をくいくいっと引っ張った。

「何ですか?」

「先にシャワー浴びてくる。服……脱がしてくれ」

「"o(-_-;*) ウゥム……」

右手に持った包丁が、ふるふると揺れている。俺の作戦に気がつき、コイツは――って思っていることだろう。顔を赤らめさせて困惑している表情が、結構好きだったりするんだよな。

「ゴメンね、千秋。穂高くん的には、上手く脱げなくって」

「Σ(~∀~||;)ゲッ……。穂高くん的って」

「手間のかかる男は、好きじゃないよな。やっぱり自分でやるよ」

身を翻すように背中を向けたら、着ているシャツをぎゅっと掴んできた。優しい君は、俺を見捨てることなんてできないだろう。

「脱がしてあげますから! ちょっと待ってくださいって」

(――ほら、ね。かかってくれた)

「……いいのかい、千秋?」

「いいですよ。手を洗ってっと。はい、こっち向いて下さい」

「全部、脱がしてくれ( ̄ー ̄)ニヤリ」

笑い出したい気持ちをぐっと抑えつつ、神妙な顔を作って千秋を見下ろすと、渋々言うとおりにやってくれた。

たまには脱がしてもらうのも、いいものだな――。

「あ……」

おっと、クララが勃ってしまった。いかんいかん!

「穂高さんっ、何を考えて……」

「いやぁ千秋の触れてくる手が、所々いやらしい感じがあって」

「そんなの酷いっ、普通に接してましたから!」

「へぇ天然か。それは厄介だな」

顔を真っ赤にして怒る千秋を尻目に肩を竦めて、風呂場に向かった俺。

――穂高くん的な作戦、まだまだ続けさせてもらうよ。

鼻歌を歌いながら仕事の汗をシャワーでさっさと流し、濡れた身体を手早くタオルで拭く。だが、頭は緩めに拭うだけにしておくのがミソ。

トランクスを履いて首にタオ
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